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東京高等裁判所 昭和63年(う)1179号 判決 1989年1月24日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中八〇日を原判決の刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人菅野一彦名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。 控訴趣意一(法令適用の誤りの主張)について

所論は、原判決は判示第三の覚せい剤の所持の所為を判示第一及び第二の所為と共に併合罪を構成するものとしているが、原判示第三の覚せい剤の所持は原判示第一の覚せい剤の譲受け行為に必然的に伴うものとして包括的に評価され別罪を構成しないのに、独立して所持罪の成立を認めて他罪と併合罪を構成するとし、所持罪が最も犯情が重いとして同罪の刑に法定の加重をした原判決には法令適用の誤りがありかつその誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである、というのである。

そこで、記録を調査して検討すると、関係証拠によれば、被告人は、昭和六三年七月三一日午前八時三〇分ごろ、笠間市稲田のA方作業所において、同人から原判示第一のとおり、覚せい剤約0.177グラムを無償で貰い受け自宅に持ち帰っていたところ翌日である同年八月一日午前六時三〇分ごろ、仕事の前に覚せい剤を一発射とうという気になったが、注射器がなかったためAから借りようと考え、同日六時四〇分ごろA方に赴き、Aから注射器を借受け、前記覚せい剤のうち約0.06グラムを注射使用し、その残量約0.117グラムを被告人において前記A方作業所において所持していたところをその場で警察官に逮捕されたものであることが認められ、このような事実関係のもとにおいては、被告人の八月一日における覚せい剤約0.117グラムの所持が七月三一日の譲受けに必然的にともなうものとして右譲受けに包括的に評価されるものとは到底認められず、これとは別個の所持罪を構成するものと解すべきであるから、原判決の法令の適用には所論のような誤りはなく、論旨は理由がない。

控訴趣意二(量刑不当の主張)について

所論は、要するに、原判決の量刑は、刑の執行を猶予しなかった点で重過ぎて不当である、というのである。

そこで、記録を調査し、当審における事実取調べの結果を加えて検討するに、本件は被告人が覚せい剤約0.177グラムを譲受け、その翌日うち約0.06グラムを自己使用し、その残りの0.117グラムを所持したという事案であるところ、被告人は昭和五七年一一月、覚せい剤の自己使用の罪で懲役一〇月、四年間執行猶予に処せられた処罰歴があること、被告人の覚せい剤の使用歴は相当長いこと、前刑の執行猶予期間満了後もかなり頻繁に覚せい剤を使用しており、被告人の覚せい剤使用は相当常習化しているとみられることなどを考え合わせると被告人の刑責は重いものというべきである。

そうすると、被告人が反省していること、被告人の妻や兄が被告人を監督していくことを誓っていること及び被告人の家族の状況等被告人のために酌むべき諸事情を十分に考慮しても、被告人を懲役一年二月の実刑に処した原判決の量刑はやむを得ないものというべく、これが重過ぎて不当であるとはいえない。論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、刑法二一条により当審における未決勾留日数中八〇日を原判決の刑に算入することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官時國康夫 裁判官小田健司 裁判官神作良二)

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